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Q&A 個人名義の借入金を法人名義に変更する場合の注意点

2022.11.10 税務情報経営情報

Q.これまで個人事業をしていましたが、法人成りすることになりました。個人事業時代に金融機関から融資を受けており、未返済額が残っています。この借入金をどうすればよいのか教えてください。

A.まず、借入金の名義が個人のままですと、法人成りしたとしても、支払利息を法人の経費とすることはできません。法人から受け取る役員報酬の中から、返済していくということになります。

次に、金融機関の合意が得られた場合、個人事業の借入金を、法人の借入金に名義変更することが出来るケースがあります。この場合は、法人の借入金になりますので、当然支払利息も法人の経費となります。名義変更できるかどうかは金融機関の意向に寄りますので、まずは、取引銀行さんへご相談されることをお勧めします。

個人名義の借入金を法人名義に変更した場合に問題となるケース

まず、自分がつくった会社であっても、個人と法人は別人格であるということをご理解ください。この観点で考えると、法人から見ると、他人の借金を背負う代償として、その対価をもらう必要があります。例えば、1000万の借入金を背負う場合は、1000万の現金をもらわなければなりません。

ただし、えてして中小企業の法人成りの場合、設立したばっかりの法人に十分なキャッシュがないことが多いため、借金だけ法人に名義変更し、個人からはお金をもらわないままのことが多いです。この法人の取引を仕訳にすると、下記の通りになります。
仕訳例)
◎本来:現金/銀行借入金1000万
△よくある例:役員貸付金/銀行借入金1000万

役員貸付金の問題点

ここで生じる問題としては、外部から会社の決算書を見たとき、バランスシート上に多額の「役員貸付金」が計上されることになり、財務分析上の数値が悪化します。

直接の取引銀行は実情を把握しているからまだいいかもしれませんが、その他の金融機関から見ると、はやく役員貸付金を消してくださいとなります。場合によっては、新規の融資を受けることが難しくなることも考えられます。

また、税務上の問題点として、役員貸付金に対する受取利息を計上しなければならないということがあります。法人は営利目的で存在しているのだから、他人にお金を貸した時は利息をとるのに、同族関係者だからといって受取利息を計上しないのは利益操作にあたるということになります。

よって、実際に法人が貸付金に対する利息を受け取っていなかったとしても、受け取ったものとして計上しなさいという税務上の取り扱いがあります(みなし利息)。結果、その利息に対して税金の負担が生じるケースがあります。

解決策

社長個人が現金を持っていれば、法人にその現金を入金することで、役員貸付金を消すことが出来ます。しかし、社長個人が現金を持ち合わせていないことが多いため、法人の決算書上の役員貸付金を消すことがなかなかできなくて困っているというケースが多く発生します。

法人が社長に多くの役員報酬(給与)を支払うことで、役員貸付金を消していくという方法もありますが、役員報酬を増やすことで社会保険料負担が増加することから、これも実際には難しいケースが多くなります。

個人事業での借入金が、設備投資に関連するものであった場合、個人事業で所有していた固定資産を法人に売却することで、役員貸付金を減らすことが出来るケースもあります。

仕訳例)
◎固定資産の評価額(売却額)と借入金の金額が同額の場合:
固定資産1000万/銀行借入金1000万

△固定資産の評価額(売却額)が借入金の金額より少ない場合:
固定資産 600万/借入金(●●銀行)1000万
役員貸付金400万

固定資産の評価額(売却額)について

固定資産の評価額は、直近期末の未償却残高とするのが一般的です。借入金の残高がそれより多い場合、借入金の残高に近づける金額を売却金額とすることもできますが、時価の2倍以内に収めないと税務上問題となるケースがあります。また、未償却残高を大幅に上回る金額で売却した場合、差額が個人の譲渡所得となり課税が発生するケースがあります。この辺りは個別にご相談ください。

実務上は、固定資産の評価額(売却額)が借入金の金額より少ない場合も多く、当初の借入目的が運転資金の場合は特に多額の役員貸付金が発生してしまうことになり、この残高を減らすのに苦労することになります。

まとめ

よって、個人事業の借入金を法人に名義変更する際の注意点として、下記3つに留意してください。
①出来るだけ役員貸付金を発生しないようにすること
②どうしても発生してしまう場合は、金融機関にもその旨あらかじめ伝えておくこと
③発生した役員貸付金を早期に消す努力があること